空色徒然草

by いおいお

金原瑞人週間〜3冊目〜

 前に読んだのが似非異世界ファンタジーだったとすれば、今回のは本物の異世界ファンタジーだった。正確に言うと、SFだった。
 人が歳を取らない世界。老化防止薬とかいうものが開発されて人々は歳を取らなくなり、死ぬのが遅くなった。その代わり、子どもを産めなくなったのである。子どもの存在は珍しかった。子どもが街を歩いていると、指を差され、ささやかれ、人さらい(子どもをさらって高値で売る輩)の目が光る。そんな世界で自分の運命を切り開いていこうとする「本物の」男の子タリンの物語である。
 永遠の子ども「ピーターパン」の話を下敷きにしているのだけれど、ある意味ピーターパンよりも生々しくて狂気じみている。ピーターパンの頭文字を取った「PPインプラント」という手術を受ければ(違法だけれど)、子どもは永遠に子どもでいられる(少なくとも見た目は)。実際にその手術を受けた、見た目は10歳、中身は50歳のバレリーナが町の劇場で何十年も稼ぎ続けていたりする。けれど、そういう生き方は本当に幸せなのだろうか、とタリンは悩む。
 大人が五十年も百年も長生きをし、子どもが珍しい存在になるという設定の時点でかなり暴力的だけれど、一番印象的だったのは、街中でうっかり外を出歩いてしまった「赤ちゃん」連れの夫婦に野次馬が殺到するシーンである。このシーンの怖さは、実際読んでもらったほうがいいと思うので詳しく言わないけれど、僕にとっては強烈だった。
 翻訳は程よく施されていて、読みやすい。翻訳ものは「日本人だったら絶対そんな喋り方しないよ」みたいな感覚が邪魔をして(喋っているのは日本人ではないからその辺の違和感は当たり前なのだけれど)どうも読みづらく感じると思っていたけれど、余計なことをせずにすっきりとした日本語に訳してくれれば全然違和感なく読めるのだ。良かった。

『世界でたったひとりの子』(アレックス・シアラー/金原瑞人訳)読了。

 

世界でたったひとりの子 (竹書房文庫)

世界でたったひとりの子 (竹書房文庫)