空色徒然草

by いおいお

金原瑞人週間〜1冊目〜

 最初はわからなかったが、「ウィルスン」の登場シーンあたりで「あ、これ読んだことあるやつだ」と気が付いた。国語の教科書か何かで抜粋で読んだのかな、とも思ったけれど、ウィルスン氏登場シーンも最後のシーンも何となく覚えているということは、少なくともそのシーンを含む部分は全部読んだのだろう、しかしそうすると、教科書に全部載せるには少し長すぎる気がする。たぶん中学生か小学生の頃だと思うけれど、どこで読んだのかまるで覚えていない。
 しかしそういう若いころにすでに金原瑞人の翻訳に触れたことがあったという証拠である。そう言われてみれば、ハイム・ポトクという原作者名もどこかで聞いたことがあるような気がしてきた。
 ところで、『ゼブラ』を読んでいて一番心に残ったのは、描写の巧さであった。どう描写するかということより、「どの順番で」「どれくらい(細かく)」描写するかという判断が優れているように思う。これは金原氏を褒めることになるのかポトク氏を褒めることになるのかよくわからないけれど、たぶん両方だろう。読者に過度な想像力を要求しない、優しくて説得力のある描写で気持ちが良い。
「ケヴィンはききづらい声で、それも早口で、しょっちゅう手ぶりをまじえながら話をした。イングリッシュ先生が何度もケヴィンの言ったことを繰り返す。」
 イングリッシュ先生の「お話」の授業(「想像力の授業」)での一コマを描いたこのくだりが、個人的には特に好きだ。いかにも陰キャ・オタクっぽい子どもが一生懸命自分の想像した話をしているのを、他の子どもにも聞き取りやすいようにゆっくり繰り返しながら耳を傾ける先生。こういう子どもってどこにでもいるけれど、こうまで言葉少なに、わかりやすく、かつ優しく描写した文章があっただろうか。この一文だけで僕はこの小説が好きになった。もちろん風景の描写やウィルスンの風貌の表現も優れている。
 
『ゼブラ』(ハイム・ポトク/金原瑞人訳)読了。

ゼブラ

ゼブラ